(メモ)「生きた隠喩」

数は少ないながらも論文を書くときに、“比喩、隠喩、メタファー”という言葉を使わなかったことはない、というくらいにお世話になりながら、その働きについて、ちゃんと考えたこともなかったな、と思いいたり生きた隠喩 (岩波モダンクラシックス)を読み始める。

あまり顧みられることもないのかもしれないけれど、今の自分にとっては学ぶところが多かった。

あえて断定的なもの言いから始めて、そこから押し出されてしまうものをすくい取るために、言葉づかいのフレームを粘り強く修正してゆくスタイルに、研究者としてあるべき姿を教わった気がする。

隠喩といえば、隠喩的な言語があるというよりも「言語が本質的に隠喩なのだ」とはよく聞くフレーズではあるけれど、それで流さずに、ではその隠喩の「隠喩性」をなすものとは何かと問い直す。

はじめに明快な定義が出される。


隠喩の構造はただ一つ、ある事がらに対し、別のものを指す名を用いる「語義の転用」であるが、機能は二つあることになる。説得や論理性を目的とした「弁論術的機能」と、イメージを伝える「詩的機能」


これだけでも論点によっては充分使えるものだとは思うけれど、本書はその定義が生み出す機能(意味)の「二重性の謎」に踏みとどまる。

煎じ詰めると、隠喩はAをBのあいだに類似性を認めて、AをB<と見る>ことなのだけれど、肝心なことは、Aは完全にBではない、ことも忘れないことなのではないだろうか。

「つまり、隠喩は両者の差異を超えて、「これはあれである」と言い切ること。前の境界の廃墟の上に、新しい境界を敷設すること。(差異の中に類を生み出すこと)

自分など、論文を書いていて感じるのは、AをBと見たときに、AをBと同一視してしまう辛抱のなさなので、両者の隔たりを視野に入れつつ、AをBと見ることの意義を探る本書の議論の姿勢や言葉づかいはとても興味深く読んだ。

「字義通りの<でない>は隠喩的な<である>を伴う」
「XをY<と見る>ことは、XはY<でない>ことを包含する」
「時間を乞食と見ることは、まさしく時間は乞食でないことを知ること」

時には明快に語ることも必要だろうけれど、こうした葛藤を安易に切り捨てないことは、論文書くときなどは頭の片隅に入れておきたいな、と思った。

呪われたUSBメモリー

そして、スキー実習の引率。
学生数は35名程度でうちスキーは13名。
ただ、引率教員がスノボは5名に対して、スキーは自分と体育教室のボスの2名だけ。実習に行く前は「あくまでサポートで来てくれたらいいから。学生に付いて滑ってくれてればいいから」とのことだったが、どうやら話が違う。
学生のレベルもまちまちで、全く初心者から、北海道出身でずっとスキーしてたり、スキー連盟の2級のバッジを持っているものまで。どうやったって二班に分けることになるので、一班受け持たざるをえないじゃないか。
すると、体育のボスが「一人どうしようもない初心者がいて、俺がその子をマンツーマンで見るから、Mさん残りの連中見てよ」とおっしゃる。いや、万が一事故が起こったときに他教室の僕では責任もてないですから、と訴えるが聞き入れてもらえず。仕方がないので比較的うまい連中を隊長に任命して、3名ずつ4小隊に分ける。
1月の研修でならったばかりのコツを(実際にはできないけれど)説明して、「あそこの木の下まで」などと目的地を設定して小隊ごとにオートで移動させる。学生のメンツにも恵まれていて、うまい連中も面倒見よく教えてあげていて、初めてという学生たちも3日目にはそれなりに滑って降りられるようになっていて楽しそうだったから、結果的には良かった。

それと平行して起こっていた別件のトラブル。
研修前日の夜、しばらく留守にするので研究室にこもって成績や教務の時間割の作業をしていたところ、USBメモリーが突然認識されない。正確には、デバイスとして正常に認識はされているのだけれど、中のファイルにアクセスしようとすると、「フォーマットの必要があります」とのメッセージ。パソコンには詳しくないけれど、フォーマットは絶対にダメだくらいは分かったので、キャンセルしていくつか方法を検索して試してみるが、甲斐なし。体育の同僚H先生のパソコンを借りて試してみるが、症状は変わらず。

成績や時間割、それから論文関係などの大事なデータを一括して入れていたので、途方に暮れて、ああ、いっそのことフォーマットしてみたら奇跡的に復活するかな、とヤケになってたその時、Hさんがたまたまネットでデータ復旧サービス会社の広告を見つけてくれる。
すがる思いで電話してみると、「とりあえずメモリーを郵送してください」とのこと。その日の内に宅急便で送って、次の日は早朝から落ち着かない気持ちで新潟へ出発。
実習先でもメールを確認していたら、2日目の夜にはデータ復旧会社から、「復旧可能です」との連絡が来て安堵。自分の拙い理解では、ハード面での故障というより、中のデータにアクセスするための鍵(ドア?)に当たる部分が壊れてしまったようだ。実習から戻ってすぐに費用を振り込み、次の日にはデータが届いたので何とか成績提出には間に合った。
これまでデータが消えたりといったトラブルにはあまり見舞われたことがなかった(今思えば幸運なことだったのだろうが)ので、バックアップなどには無頓着だったので、いい薬だった。

それにしても、HD内のファイルなら自動でバックアップ設定できるようだけど、USBメモリーって可能なのだろうか?知ってる人いたら教えてください。

(追記)
パソコンに詳しい職場の1年後輩の女性からdrop boxというクラウド・サービスを教わる。メモリー内まるごとバックアップだけでなくファイルの選択も可能。

http://www.getdropbox.jp/

それから、データの復旧会社。費用はそれなりにかかりますが、ソフトなどで試してダメなら最後はこちらへ。

http://www.rescue-center.jp/

スキー研修での事件

まずは昨年11月頃のこと。

体育教室の中ボスクラスの准教授から「Mさん信州にいたのなら、スキーできるの?」と聞かれて「広島にいるときから始めたので、転びはしないけどヘタですよ」と答えると、「ああ、充分、充分」とのお返事。その時は何が「充分」なのかは分からなかったのだが、信じられないことに、それで2月に新潟で行われる二泊三日のスキー実習引率の手伝いが決定する。


それを聞いて、「子供が生まれてから数年はまともに行ってないですよ」という話を慌てて中ボスにすると、「じゃあ、こちらに行ってみるといいよ」と1月年始に長野の菅平で行われた体育教員向けの三泊四日のスキー研修に飛ばされる。費用は体育教室で持ってくれる(当たり前だ!)とのことだったのだが、体育教員向けの研修ということで、不安いっぱいで参加する。


 講習はレベル別で行われたので、自分は久しぶりということもあるし今までロクに教わったこともないので、初級者コースに入れてもらう。なかにはスキーは初めてという人もいて、ガンガン滑る体育会系合宿を想像していた自分としてはちょっと安心する(ちなみに、中ボスはスノボ班の“インストラクター”!)。
 しかし、「スキーは全く初めてなんですけど、体育教員ということで2月には引率して班を一つ持たなきゃいけないんで、不安ですよ」と最初は言ってた先生たちがみるみる上達してゆく身体能力の高さを目の当たりにして、やっぱり「職業」が違うとレベルアップのスピードがちがうなぁ、と感心する。あと、初心者とはいえ、さすが社会人、スキー板やブーツなど装備は良いものをそろえてらっしゃる。「てんくうの・・・」とまではいかないまでも、「ドラゴン・・・」クラスか?「かっこいいですね」と褒めると「指導員やってる知り合いからもらった物なので、よく分からないんですよ」という発言などは、「銅のつるぎ」レベルのレンタル品で固めた自分などから見ると、まさに“選ばれしもの”?。


基本的には板を「ハ」の字で滑る練習だったけれど、自分も重心の乗せ方やターンの時の重心の移動などいくつかコツを教わって、いくつか気付きを得て、とてもためになった。夜は宿屋のレストランでおいしいビール飲みながら、皆さんから大学で体育を教える意義や苦労話などを伺い、自分も「英語は英語で大変なんですよ」という話をする。


・・・などと、それなりに楽しいこともあったのだけれど、落とし穴は最終日に待っていた。初級グループとはいえ、さすが体育会系、4日目になると皆さんかなり滑れるようになっていて、自分などは完全にお荷物。けれど、インストラクターの先生も気分がよくなったのか、「最後にちょっと新雪が積もってるあたり挑戦してみましょうか」とさらにハードルを上げてくる。案の定フカフカの雪に板がもつれて、何度も派手に転倒。
それでも怪我もなく何とか降りてきて、無事にプログラム終了、と思いきや、自分のウェアのポケットが開いてて、入れてたはずの小銭入れがなくなっている!「中には何入れてたんですか?」と聞かれて、

「小銭と、免許証と、あと、結婚指輪

と正直にお答えすると、気の毒がられるよりも、「なんでそんなもの外して入れてたんですか!」と方々から突っ込まれる。いや、“貴重品”だったからなんですけど・・・。絶望的な思いで転んだあたりを捜索しながら2回ほど滑って降りる(仲良くなった中ボスのM先生も一緒に見てくれた)が、雪が降ってたこともあって、とても見つからず。


さらにツライのは、それを妻に言わなきゃいけないことで、電話して「ちょっと事件が・・・」と前置きして説明すると、「まぁ、しょうがないよね、怪我したとかじゃなくてよかった。結婚10年目に新しいの買ってね」と、大人の対応をしてくれたことが、逆に針のムシロ気分。これも年始から、業務の一環とはいえ家族を置いてスキーに来たバチが当たったのか?と自責の念。しばらくは大人しくしておこう。

「スキーけんしゅうをクリアした」
「スキーのレベルが1あがった」
「Mせんせいががなかまになった」
「けっこんゆびわをうしなった」


学生の引率についてはまた今度。

最近の子供たちのこと

直近の週末のこと

自分はいろいろあって早めに千葉に戻ってきていたので、息子の幼稚園が始まるギリギリまで実家に帰省していた妻子を空港に迎えに行く。
次の日は「久しぶりにパパとパンが作りたい」という乙と一緒に、チョコを練り込んだマーブル生地であんパンとホイップクリームを挟んだコッペパンを作って家族でおやつに食べる。「ついでに晩ご飯も作るか」と息子にフードプロセッサで大量のキノコを粉砕させ、煮詰めてクリームパスタにする。幸いなことに娘もよく食べたので、乙も得意満面だった。

最近の息子はずいぶん手先が器用になっていて、あやとりがマイブーム。ハシゴも二段から四段まで作れるようになって、鉄橋、カメ、メガネとずいぶんレパートリーを増やしている。幼稚園でもお友達に教えまくってるようだが。
昨年5月に始めたピアノも(全く弾けない僕の目から見ると)かなり上達している。ドレミも分かってるようで、「おかあさんといっしょ」を見ながら耳コピして弾いているところなど、自分の血を引いているとはとても思えない。かなりのインドア傾向(というより出不精)と言えば共通かもしれないが。

娘の方もすっかり二足歩行が板に付き、女の子のせいかおしゃべりも達者。お兄ちゃんは2歳まで何も言わなくて周りを心配させてたが、妹は自分のことも舌足らずながら「ゆーじー」と言うようになったし。ただ、ずいぶん頑固でいやなものは断固やらない、食べないという傾向が出てきてるので、魔の2歳期は大変だろうなーと今から妻と心配している。

そんな兄妹たちのお気に入りは親が懐かしさのあまりに出来心で借りてきたドリフのDVD。ちょうど年末にあった特番も集中してずっと見ていた。お兄ちゃんがピアノで弾くヒゲダンスの曲に合わせて妹が踊るのが最近の我が家の光景となっている。

今年も始動させます

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
更新途絶えてましたが、しぶとく生きてます。

昨年後半は、教務担当での時間割編成作業が主な仕事。教務課と教員に連絡を取って調整しながら、慣れないエクセル作業。数を数えたり、入力用のリストを作成したり、別の表を参照するくらいはできるようになった。
その合間に、講義準備と小テストの採点と集計、その他細々とした委員会や英語教室関連の単発的な雑務。多分仕事量としては大したことはないのだろうけど、めんどくさがりで億劫がっていると取りかかりが遅くなってしまって、結果忙しそうに見えてしまっていたらしいので、反省。

そうはいっても、週末はそこそこ時間もあったので、家族サービスと学会と時々稽古に行かせてもらったりで気分転換はできていたように思う。
年末には合気道の昇段審査も受けれたし。

ただ、色々重なった時があって「あー、やっとられんわ」と1日だけ全てほっぽらかしたことがあった。
その時に平日真っ昼間、久しぶりの映画館で見た『悪人』は、2010年思い出の1本となった。子持ちの身としては、被害者の父役の柄本明や加害者の祖母役の樹木希林の出番がもっと多くても良いのになとも感じたが。子供のためにしてやれることなんて僅かなのだけど、それでも何かしてやりたい、というところがもっと見たかった。

悪人 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

年男だった昨年は2度の海外出張も含めて、降ってくる仕事をこなすだけで精一杯(それはそれでありがたいことなのだけど)だったので、2011年は少し腰と腹を据えて個々の仕事のクォリティを上げたいな、というのを抱負にしたい。

実は年始早々いろいろあったのだけど、それはまた書きます。

イギリス日記2

雰囲気だけでも伝わればと、追記で写真の紹介を。

ダブル・デッカー。

自分の記憶にあるより若干モデル・チェンジしたような気がする。イギリスも変わってないようで、ずいぶん変わっていたんだな。


テート・モダン。

この10年の間に新しくできてたものを駆け足で行脚。現代アートを中心に展示していたので、知識のない自分でも気楽に楽しめた。写真の展示が多かったのも好みに合っていた。以前は肖像などはあまり興味がなかったのだけど、アウグスト・ザンダーを筆頭に限られた時間の中ではあったが、じっくり鑑賞できたのもよかった。


ミレニアム・ブリッジとセント・ポール寺院

思ってたよりも狭い橋だった。


そしてキングストンの街並み


街の名物オブジェだそうな


そしてお約束のフィッシュアンドチップス



学会の方でも得られたものは多かったように思う。
今後の励みとしたい。
また、特別講演でRobert Eaglestonが来てたので、何かの御利益があればと持参した本にサインをもらう。
Ethical Criticism: Reading After Levinas



余談ですが、行き帰りの飛行機で読んだ吉田修一の「悪人」が結構(かなり)よかったです。いかにものタイミングで読みましたが、読んでよかったです。
悪人(上) (朝日文庫) 悪人(下) (朝日文庫)

イギリス日記

帰国してみると、それぞれの事情で後期から授業が続けられなくなったという先生がいらっしゃるので、抜けた穴を埋めたり、そのための提出書類を整えたり。

そうこうしているうちに早くもイギリス出張の日がやってくる。
それまでは全く雨の降らない日が続いていたのに、前日は狙ったように台風が日本直撃。電車が止まって帰れなくなったりなど、雨男の本領発揮かと思われたが、何とか出発当日は晴れる。

12時間のフライトの後、10年ぶりのイギリス。空港が前よりもきれいになってたので驚いた。
そのままバスに乗ってキングストンへ向かい、次の日は某女性作家に関する学会に参加。
アイリス・マードックというと、あまり聞かなくなっていた印象があったのだけれど、200名近くが集まっていて、こういう世界もあるのか、と感心する。2日間にわたり、多彩なテーマの面白そうな発表がセミナー形式でいくつも平行して行われていて、全く専門ではないけれど、興味を引かれるままにいくつか渡り歩く。哲学者でもあったということで道徳や倫理と小説についての発表が面白かったように思う。それから知人の先生の発表を拝聴。事前には色々心配されてたけど、質疑応答も全く危なげないパフォーマンスでしたよ。
その後パブで慰労会。久々にエールを堪能。
いろいろ勉強させてもらったので、これからの活動に活かしてゆかねばと思う。