わたしを離さないで

文庫になってたので『わたしを離さないで』を再読。
語り手キャシーが物わかりがよすぎ、という批判もあるけれど、避けられない運命に向き合ったときの彼女の姿勢も以前よりは理解できる気がする。まぁ、あまり書きすぎてもあれなので。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)


そういえば当時ブッカー賞を争っていた『海に帰る日』も、何度か挫折と中断を繰り返しながらようやく読了。大人になりきれないまま老人になった男の物語、なのかな。山もなく、谷もない展開が合っていなかったのかも。主人公が美術史研究者、という設定がどう作用しているのか判然としなかったのも、すっきりしない。
海に帰る日 (新潮クレスト・ブックス)

両者とも、巧みに構成された過去の回想だが、「何度も思い出したい記憶」と「できれば忘れてしまいたい記憶」をめぐる物語では、作品の手触りが全く変わるのだなということを再認識。読者に強いる負担(というとあれだが)も。どちらの場合も、美化する方と歪曲する方に(私見では)1.25倍程度の割合で事実が変化する点では同じか。

1989年に「日の名残り」がブッカー賞を取ったときの候補作にもバンヴィルの作品が入っていたので、2005年に『海に帰る日』がとったときには「バンヴィルのリベンジだ」などと言われてたりしてたが、他にもマキューアンの『土曜日』など受賞経験者がリストにひしめいていた年だったので、作品以外の要因も受賞に関係していたのだろう。と毒にも薬にもならない感想