猫を抱いて象と泳ぐ

たまには本の話でも。他愛ないメモですが。
小川洋子の「猫を抱いて象と泳ぐ」がとても良かった。
普通の人なら気にも止めないものに「詩」を読み取る視線と、それを言葉に落とし込んでゆく手際にはいつも感心させられる。
チェスという、ルールと盤に限定された中で無限の自由を発揮するゲームをテーマにして、その自由を解放するために盤上の駒すら見ずに、机の下に潜り込んだり人形に入る少年という設定は面白い。
読むことのアレゴリーですな。「外の暖かさを味わうために、冷たい部屋の中にこもる」という一節が喚起された。
その一方で彼女の作品の物語展開は「もう少し先まで読みたい」、と思うことが多かったのだけど、今回は初めてチェスを教わったマスターとの別れからその後の展開まで、少年のたどる道を書ききった印象。

「あなたに初めてチェスを教えたのがどんな人物だったか、私にはよく分かりますよ」
「あなたの先生はきっと耳の良い方ね。辛抱強くいつまでも、駒の声にじっと耳を傾けていられる方。自分の声より駒の声を大事にできる方」

という好敵手の老婆令嬢の言葉が印象的。

猫を抱いて象と泳ぐ